感謝の思いが大きなパワーに

神戸製鋼に入社

大学を卒業した私は、熱烈に勧誘していただいたこともあり、神戸製鋼に入社しました。当時の神戸製鋼ラグビー部は、関西では強豪チームの一つでしたが、全国社会人大会では優勝経験はありませんでした。私は1986年度からキャプテンを務めました。この年、大物新人として平尾誠二さんが入社しています。その少し前からチームは改革を始めており、「やらされるラグビー」から、「自分たちで考えるラグビー」を目指して監督制度を廃止していました。私もキャプテンに就任して「自主的な練習で強くなろう」という理想を掲げたのです。しかし、理想とは裏腹に、現実はうまくいかないことが続きました。

ラグビーをやめよう

神戸製鋼ではキャプテンを２年間やりましたが、優勝の夢を叶えることはできませんでした。チーム事情でポジションを替わり、膝を悪くして思うようなプレーもできず、メンバーたちと気持ちが通じ合わないという悪循環に陥ります。それでも優勝できると信じていましたが、その年優勝した東芝に１点差で敗れ、キャプテンを降りました。後継には平尾誠二を指名しました。慰留されたのでチームには留まりましたが、膝も回復せず、皆の信頼もなくしており、もうラグビーをやめようと思っていました。

胸に突き刺さった言葉

そんなあるとき、当時のラグビー部部長だった平田泰章さんに呼ばれ、こう言われました。「林君、君はこのままラグビーをやめてもええのか」。ふて腐れて黙っている私に、部長はこう続けました。

「林君、このままラグビーをやめるなんて、失礼だとは思わないか。君にラグビーを教えてくれた中学の先生、高校の先生、同志社大学の岡仁詩先生に対して、失礼だと思わないのか」

この言葉が私の胸に突き刺さりました。それまで私はどこかで、自分一人で成長してきたと思っていました。しかし実際は、いろいろな人のお陰でラグビーを学ぶことができていたのです。そうした人たちに感謝することを忘れていたのです。

平田さんの言葉は私を再び奮い立たせ、「もう一回本気でやろう」いう気持ちになりました。あふれる感謝の思いが、私の心に火を点けました。それから心を新たにして懸命にリハビリに励み、チームに合流できたのは全国社会人大会が始まる一週間前です。立ち直るため、たくさんの人にお世話になりました。

最高の思い出

そうして再び挑んだ全国社会人大会では、神戸製鋼は念願の初優勝を遂げることができました。

ノーサイドの笛がなったとき、キャプテンの平尾がやってきて、「林さん賞状をもらってきてよ」と言います。普通はキャプテンが賞状をもらうと決まっているので、「何言うてるねん」と返すと、「いや林さん、これもらえるのは林さんしかないですよ！おい、皆、林さんに行ってもらうぞ！」と、表彰状の授与を譲ってくれたのです。涙がボロボロあふれました。私の最高の思い出です。私のラグビー人生には何度か挫折がありましたが、立ち直ることができたのは、恩人の皆さんや仲間への「感謝」の気持ちのおかげだと思います。