
玉置 妙憂
たまおき みょうゆう
看護師・僧侶
看護師・僧侶・スピリチュアルケア師・ケアマネジャー・看護教員。専修大学法学部法律学科卒業。国際医療福祉大学大学院修士課程保険医療学看護管理専攻看護管理学修士。高野山での修行を経て、高野山真言宗阿闍梨となる。現在は非営利一般社団法人「大慈学苑」を設立し、スピリチュアルケアを実践している。
なんでも面白がる
「仕事」と「生活」は違う
がんになった夫を自宅で介護していたころの話です。もともと私は看護師ですから、周りからは「手慣れたものだろう」「うまくできるに決まっている」と思われていました。たしかに、技術的な面で困ることはありませんでしたが、そうそううまくいくことばかりではありませんでした。やはり、「仕事」と、「生活」は違います。家族の介護は「生活」になりますから、いくら看護師であったとしても煮詰まってしまうことがありました。たとえば、夜中に「おーい」と呼ばれるわけです。何事か! と駆け付けると「寝てもいいかな?」などと聞いてくる。最初のうちこそ「どうしたの?眠れない?」と優しく受け答えしていましたが、これが何度も何度もとなってくるとたまりません。寝不足の体調不良も手伝ってイライラ、ムカムカ。「勝手にどうぞ。そんなことでいちいち呼ばないで!」と邪険に言い放ったこともありました。
止まらないコール
このままでは共倒れになってしまうと、さまざまな対策を講じました。まずは、本人の説得。くだらないことで、私を呼ばないで欲しい。とくとくと説明しましたが、うまくいきませんでした。だって、私が「くだらない」と思うことと、彼が「くだらない」と思うことは違いますから。当然、頻繁なコールは止まりませんでした。
次は、無視する。どうせ、たいしたことないことで呼んでいるのはわかっているのですから、無視して寝ていればいいのです。でも、そうはいきませんでした。もし、万一、本当に大変なことになっていたらどうしようと、落ち着いて寝ていられないのです。
家族で分担する。長男はある程度の年齢になっていましたから、協力をお願いして分担制にすることも考えましたが、子どもにこんな思いをさせたくはありません。これも、ちょっと考えただけで「却下」でした。

家族の介護では煮詰まることがある
ひかえおろう!
どれもこれも解決策にならず、寝不足もあいまって体力的にも精神的にも追い詰められてきたある夜、いま思えば私も相当やられていたのでしょうね、ふと思い立って時代劇調の対応をしました。「なにごとでござるか」「ひかえおろう!」「であえ!であえ!」。目をまんまるに見開いて驚いている彼の様子が面白く、真夜中に時代劇の真似をしている自分にもおかしくなってしまって、2人で大笑いしました。
一番うまくいく方法
結局、それが一番うまくいったのです。「面白がる」です。それからもしばらく夜中のコールは止みませんでしたが、「今度はどんな調子で驚かしてやろうかしら」とわくわく。
寝不足でしんどいことに変わりはありませんでしたが、イライラ、ムカムカはしなくなりました。それだけで、家の中の澱んでいた空気がすう~と晴れて、とっても楽になったのです。
というわけで、この経験から得た私のひとこと。「どんなことも面白がる。面白がっていれば、いつのまにか乗り越えられる」。